埋蔵文化財発掘レポート
自然科学と考古学
 昨年のノーベル賞を受賞した下村 おさむさんは、受賞が決まったときに、長年の研究対象がクラゲの蛍光タンパク質であり、それが医学の分野で活用されていたため「医学・生理学賞は期待していたが、化学賞は思いもしなかった」と驚かれました。
 このように、多様な分野にまたがった研究で、従来とは違った観点や手法などにより新しい成果を生み出す例が増えています。
 発掘調査を通じた研究をする考古学でも、自然科学分野での研究との融合によっていろいろな成果が得られています。
 19年に実施した龍泉寺での発掘調査では、庭園が造られた前後の環境を知るために、池の堤や底に近い地層に含まれるケイソウの分析をしました。
 ケイソウとは、淡水から海水まで地球上のすべての水域で見ることができる藻の一種で、種類ごとに環境に適応して生息しています。
 外面が殻で覆われているため化石として地中に残りやすく、その種類を調べることで生息当時の環境を知ることができます。
 今回の分析で見つかった化石は全部で69種類にもなり、その多くは水底に多く生息する種で、中流から下流の河川に生息する種も見られました。  また、化石が全く見つからない地点もありましたが、これは砂層からのもので、たい積速度が速かったことなどが原因と考えられます。
 これらから、現在の庭園がある場所は、それほど深くない沼のような環境で、小川から水が流れ込んで水位の上昇が頻繁に起こったと推定することができました。
 しかし、ケイソウ化石から以前の環境は推定できても、それがどの時代の環境であるかを知ることはできません。
 時代を知る手がかりとなるのは、考古学が対象とする土器やかわらといった遺物なのですが、残念なことに今回は土壌サンプルを採取した地層から、遺物を見つけることができませんでした。
 このほかにも、遺物に含まれる鉱物の分析による産地推定や、放射線を応用した年代測定、磁気レーダーによる地中の探査など、考古学調査への自然科学の応用は、さまざまな分野に広がっています。
(平成21年2月号)